返済比率
年間の返済額が、満室想定の家賃収入の何%にあたるか。50%以内であれば、空室や修繕が発生しても持ちこたえやすくなります。60%を超えると、少しの想定違いで手元が苦しくなります。
Column | 2026.08.19
本業を持つ経営者の不動産投資は、個人の資産運用とは前提がまったく違います。守るべきものが「自分の資産」ではなく「会社と従業員」だからです。融資を実行する側にいた経験と、不動産投資メディアでの取材・執筆の経験を活かして整理します。
「本業とは別に、安定した収入の柱がほしい」。経営者の方からこのご相談をいただくとき、選択肢として最初に挙がるのが不動産です。実際、「ストックビジネスとは」のページでも触れているとおり、不動産をはじめとする資産活用は、実物資産そのものが賃料を生み続けるため、ストックビジネスの中でも安定性の高い類型です。
ただし、会社を経営している方の不動産投資は、会社員や個人の資産運用とはまったく別の話です。手元の余裕資金を運用するのではなく、本業と同じ信用力、同じ金融機関、そして同じ経営者の時間を使うことになるからです。ここを分けて考えないまま進めると、うまくいったときの効果より、うまくいかなかったときの本業への打撃のほうが大きくなります。
この記事では、本業を持つ経営者が不動産投資を検討するときに、物件を探し始める前に確認しておきたい論点を5つに整理します。
01
違いは3つあります。いずれも、個人で投資する方には存在しない制約です。
この3点は、裏返せば強みにもなります。本業で継続的な利益が出ている会社は、個人の給与所得者よりも金融機関から評価されやすく、条件の良い資金を引ける可能性があります。
本業が健全であることそのものが、最大の武器になる——これが経営者の不動産投資の出発点です。
だからこそ順番が大切です。本業の資金繰りが不安定なまま不動産に手を出すのは、武器を手放してから戦いに行くようなものです。まず本業を整える。そのうえで、余力を資産活用に振り向ける。この順序は動かさないでください。
02
経営者の方から最も多くいただく質問が、これです。「個人の不動産投資で融資を受けると、本業で借りられなくなりますか」。
まず、よくある誤解をひとつ解いておきます。銀行が法人の返済能力を判断するときに、社長個人の資産や借入を会社の決算書に足し合わせて見る、ということはありません。法人の審査は、あくまで法人の決算書をもとに行われます。個人名義で購入した不動産の借入が、そのまま会社の財務内容を悪化させるわけではないのです。
したがって、影響が出るかどうかは名義で決まります。
法人名義で購入した場合は、当然ながら決算書に表れます。借入金の残高が一気に増え、毎年の返済額も増えます。ここで注意したいのは、物件の収支をあわせて説明していないと、決算書の数字だけを見た担当者には「本業の財務状況が悪化した」としか読めない、ということです。
本来、本業の運転資金は事業の利益から返すもの、収益不動産の借入はその物件が生む賃料から返すもので、返済の原資が別です。ただし、その切り分けはこちらから説明して初めて成立します。物件ごとの収支表を用意しておくかどうかで、評価はまったく変わります。
個人名義で購入した場合は、法人の決算書には出てきません。ただし、法人の借入について経営者保証を差し入れている場合には、保証人としての資力という観点から、個人の資産・負債の状況を確認されることがあります。会社の財務と混ぜて評価されるわけではありませんが、まったく見られないわけでもない、という位置づけです。
取引金融機関に何も伝えないまま、別の金融機関で不動産の借入を起こすことです。法人名義であれば次の決算書で、個人名義であっても保証や日々の取引の中で、いずれ必ず分かります。そのとき問題になるのは金額ではなく信頼です。融資は担当者一人で決まるものではなく、担当者が行内であなたの会社を説明して決まります。事前に聞いていなかった事実が後から出てくると、その担当者は行内で説明ができなくなります。動く前に一言伝えておく。それだけで、その後の関係はまったく変わります。
あわせて、次の3点を準備しておくと話が早く進みます。
金融機関が決算書のどこを見ているかについては、「銀行は融資審査で何を見ているのか?決算書の5つのポイントと通らない理由」で詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。
03
物件広告の一番目立つところに書かれている利回りは、ほとんどの場合表面利回りです。年間の満室想定賃料を物件価格で割っただけの数字で、空室も経費も返済も考慮されていません。判断材料としては、入口の足切りに使う程度のものです。
実際に見るべきなのは、次の5つです。
年間の返済額が、満室想定の家賃収入の何%にあたるか。50%以内であれば、空室や修繕が発生しても持ちこたえやすくなります。60%を超えると、少しの想定違いで手元が苦しくなります。
年間の純収益を年間の返済額で割った数字。金融機関が必ず確認する指標で、1.3以上が一つの目安です。1.0を下回るということは、賃料だけでは返済できていない状態を意味します。
何室埋まっていれば赤字にならないか。10室のうち7室で収支が合うのか、9室必要なのかで、リスクの大きさはまったく違います。この一点だけでも、無理な物件はふるい落とせます。
給湯器やエアコンの交換、退去時の原状回復、10年から15年ごとの外壁や屋上防水。これらを毎年の費用として積み立てた後に、いくら残るか。ここを見ずに買うと、数年後に必ず驚くことになります。
10年後に売却するとして、そのときの想定価格が残債を上回っているか。下回っていれば、売りたくても売れません。特に築古物件は、融資期間が短く残債の減りが遅い一方で価格も下がるため、要注意です。
5つとも、購入前に電卓で計算できる数字です。そしてここで無理があると分かった物件は、運営の工夫では取り返せません。不動産投資の成否の大半は、買う前の計算で決まります。
この「入口の数字で見極める」という考え方は、不動産に限らずストックビジネス全般に共通します。「チャリンチャリンビジネスは本当に儲かる?収益構造から見極める5つの視点」では、同じ発想を他のモデルにも当てはめて整理しています。
04
物件選びに時間をかける方は多いのですが、実際に差がつくのは購入後の運営です。本業を持つ経営者に特有のつまずき方が、いくつかあります。
共通しているのは、本業であれば当然やっている判断を、不動産では省いてしまうことです。取引先は相見積もりを取るのに管理会社は取らない、設備投資は回収期間を計算するのに、不動産では表面利回りだけで決める。慣れない分野だからこそ、本業と同じ厳しさで見ることが必要です。
融資を実行する側にいた頃、賃貸物件の資金をお貸しする案件も数多く見てきました。順調に増やしていかれる方と、数年で苦しくなる方の差は、物件の良し悪しよりも買う前にどこまで計算していたかにありました。前者は、金利が上がった場合、空室が続いた場合の数字を自分で持っておられます。後者は、業者から渡された収支表をそのまま信じておられました。
いま支援する立場になっても、この構図は変わりません。むしろ本業をお持ちの経営者ほど、忙しさゆえに「専門家に任せる」判断をしがちです。任せること自体は問題ありませんが、任せる前に自分で最低限の数字を持っているかどうかで、結果は大きく変わります。
05
物件情報を眺めるところから始める方が多いのですが、順番としては逆です。次の5段階で進めることをおすすめします。
個人名義で不動産を保有する場合、独立した家屋なら5棟以上、アパートなどの貸室なら10室以上で、所得税の上で「事業的規模」として扱われます。いわゆる5棟10室基準です。この規模に達すると、青色申告特別控除65万円、生計を一にする親族への専従者給与、取り壊しや除却による損失の全額を必要経費にできるといった取り扱いが認められ、手元に残る金額が変わってきます。
逆に言えば、区分マンションを1室だけ持つような段階では、これらの取り扱いは使えません。最終的にどこまで増やす想定なのかを先に決めておくと、個人で持つか法人で持つかの判断がぶれなくなります。なお、適用の可否や具体的な税額の試算は税理士の領域ですので、必ず顧問税理士にご確認ください。
ここまでを一人で進めるのは、本業をお持ちの方にはかなりの負担です。とくに2番目の「金融機関との事前のやり取り」と5番目の「収支計画」は、経験の差が結果に直結する部分です。
当事務所は認定経営革新等支援機関として、事業計画の作成や金融機関への説明の場面を支援しています。また代表は不動産投資情報サイト「健美家」で継続的に執筆しており、この分野の情報を実務の視点から追い続けています。詳しくは「伴走支援」のページと「メディア実績」のページをご覧ください。
なお、不動産の取得は本業の経営と切り離せない判断です。当事務所は物件の売買や仲介は一切行いません。特定の物件をおすすめする立場ではなく、その判断が会社全体にとって妥当かどうかを一緒に検討するのが役割です。税額の試算や登記の手続きなど、税理士・司法書士の領域については、必ず各専門家にご確認ください。
FAQ
どちらが有利かは、本業や個人の所得、保有期間、売却方針、将来の相続・承継によって変わります。税率だけでなく、法人の維持費、資金の取り出し方、融資条件、本業の決算への影響も含めて判断する必要があります。
個人で保有する場合に押さえておきたいのが「5棟10室」です。独立家屋はおおむね5棟以上、アパートなどは貸与可能な独立した部屋がおおむね10室以上であれば、原則として所得税上の事業的規模として扱われます。ただし、これは絶対的な基準ではなく、賃料収入や管理状況なども含めて実質的に判断されます。事業的規模に該当し、青色申告などの要件を満たせば、最高65万円の青色申告特別控除、青色事業専従者給与、賃貸用固定資産の取り壊し・除却等による資産損失の全額必要経費算入などが可能になります。
将来何棟・何室まで増やすのかを想定したうえで、具体的な税額や適用条件は税理士に確認し、経営全体から個人保有と法人保有のどちらが適切かを判断することが重要です。税額の具体的な試算は税理士の領域ですので、必ず顧問税理士に相談したうえで決めてください。私どもがお手伝いするのは、その判断が本業の経営全体にとって最適かどうかを一緒に整理する部分です。
まず前提として、法人の融資審査は法人の決算書をもとに行われ、経営者個人の資産や借入と合算して判断されることはありません。影響が出るのは、法人名義で購入した場合です。借入金と返済額が決算書に表れるため、物件の収支をあわせて説明しなければ、本業の返済能力が落ちたと読まれかねません。もっとも、収益不動産の借入はその物件の賃料で返す性質のものですので、本業の借入と切り分けて評価される扱いは珍しくありません。個人名義で購入した場合は法人の決算書には出てきませんが、法人の借入に経営者保証を差し入れているときは、保証人としての資力という観点から個人の状況を確認されることがあります。いずれの場合も、取引金融機関に何も伝えないまま進めるのは避けてください。金額の問題ではなく、信頼の問題になります。
物件価格の2割から3割を目安に考えておくと安全です。内訳は、頭金に加えて、仲介手数料・登記費用・不動産取得税などの諸費用が物件価格の7%前後かかります。さらに、購入直後の空室や想定外の修繕に備える運転資金を別に確保しておく必要があります。
ここで重要なのは、本業の運転資金には手をつけないことです。本業の資金繰りを細くしてまで購入すると、賃料が想定どおり入らなかったときに本業まで巻き込まれます。手元資金を厚くしたまま買える範囲に物件を絞るのが、経営者の不動産投資の鉄則です。
初回相談は無料です。本業の資金繰りと借入の状況を拝見したうえで、いま資産活用に踏み出してよい状態かどうか、踏み出すならどこまでの規模が妥当かを一緒に整理いたします。無理な勧誘は一切いたしません。
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