売上が伸びた
最も多く、最も気づかれにくい原因です。売上が増えれば売掛金も在庫も増え、必要な運転資金がそのぶん膨らみます。これを増加運転資金と呼びます。好調なときほど現金が苦しくなるのは、このためです。
Column | 2026.08.26
「利益は出ているのに、月末になると資金が足りない」。ご相談で最も多く伺う状態です。これは経営が下手なのではなく、資金が減る仕組みが見えていないだけであることがほとんどです。かつて融資を実行する側にいた立場から、原因と打ち手を順に整理します。
「決算は黒字でした。それなのに、毎月末が怖いんです」——資金繰りのご相談は、たいていこの言葉から始まります。売上は落ちていない。むしろ伸びている。利益も出ている。にもかかわらず、通帳の残高だけが減っていく。何が起きているのか分からないまま、月末が来るたびに冷や汗をかいている、という状態です。
結論から申し上げると、これは経営判断の失敗ではないことがほとんどです。売上が伸びると、必要な運転資金も一緒に増える——この仕組みを知らないまま走ると、成長している会社ほど資金が苦しくなります。そして仕組みである以上、原因を特定すれば手は打てます。この記事では、なぜ足りなくなるのかを先に整理したうえで、実際に何をすればよいのか、逆に何をしてはいけないのか、そして銀行にいつ相談すべきかを順にお伝えします。
01
まず、運転資金とは何かをはっきりさせておきます。ひとことで言えば、入金より先に出ていく支払いを埋めるために、常に寝かせておかなければならないお金です。
商売の順番を思い浮かべてください。仕入れをして、加工なり販売なりをして、納品して、請求書を出して、そこからさらに1か月か2か月経って入金される。ところが仕入代金や外注費、人件費、家賃は、入金を待ってはくれません。この「先に払って、後で入る」時間差を埋めているのが運転資金です。
金額としては、おおよそ次の式で表されます。
売掛金と在庫は「まだ現金になっていない自社の財産」、買掛金は「まだ払っていない借り」です。前の二つが大きいほど、そして買掛金が小さいほど、必要な運転資金は増えます。
この式を見ていただくと、資金が足りなくなる経路は自然に見えてきます。実務上、原因はほぼ次の4つのどれかです。
最も多く、最も気づかれにくい原因です。売上が増えれば売掛金も在庫も増え、必要な運転資金がそのぶん膨らみます。これを増加運転資金と呼びます。好調なときほど現金が苦しくなるのは、このためです。
大口の取引先が増えると、先方の支払条件を受け入れる形になりがちです。回収が60日から90日に延びれば、その30日分の資金を会社が肩代わりすることになります。
欠品を恐れて多めに持つ、まとめ買いで単価を下げる。どちらも合理的に見えますが、在庫は現金が形を変えて倉庫で眠っている状態です。売れるまで、そのお金は戻りません。
借入の元金返済は費用ではないため、損益計算書に表れません。利益より元金返済のほうが大きければ、黒字でも現金は毎月減り続けます。ここが見えていない経営者は少なくありません。
4番目について、少し補足させてください。「利益が出ている」ことと「現金が増えている」ことは、別の話です。損益計算書に載る利益は、元金返済を引く前の数字です。ざっくりとした感覚をつかむには、税引後利益+減価償却費を年間の元金返済額と比べてみてください。前者が後者を下回っていれば、その会社は構造的に現金が減っていきます。
ここまでの4つは、どれも「経営が悪いから起きること」ではありません。売上を伸ばし、大口先を取り、欠品を防ぎ、借入をきちんと返している——一つひとつは正しい経営判断です。それでも資金は減ります。ですから、資金繰りが苦しいことを自社の能力不足と結びつけて考える必要はありません。必要なのは反省ではなく、どの経路で減っているかの特定です。
02
原因が分かれば、打つ手は決まってきます。ただし順番が重要です。とりわけ最初の一つを飛ばすと、あとの努力がほとんど空回りします。
今後12か月の資金繰り表を作ります。月ごとに、入金予定・支払予定・月末残高を並べるだけの表で構いません。「なんとなく苦しい」を「11月に約400万円足りない」に変えることが、すべての出発点です。
回収サイトの短縮、着手金や前受金の導入、請求書を締め日の翌日に出す。逆に支払いは、条件の範囲内で最も遅い日に寄せる。1件あたりは小さくても、全取引で効かせると効果は大きくなります。
半年以上動いていない在庫を洗い出し、値引きしてでも現金化します。帳簿価額より安く売ることに抵抗が出ますが、売れない在庫の帳簿価額は実態を表していません。銀行も同じ見方をします。
毎月の返済負担が重いときは、複数の借入をまとめて長期に組み直せないかを相談します。返済期間が延びれば毎月の元金返済は下がり、資金繰りは目に見えて楽になります。
資金調達の条件が最も良くなるのは、必要に迫られていないときです。逆に、切羽詰まってからの申し込みは、金額も条件も厳しくなります。借りられるときに借りておくのは、堅実な判断です。
1番目の資金繰り表について、もう少しだけ申し上げます。多くの経営者が「作るのが大変そうだ」と感じておられますが、最初は表計算ソフトで12列の表を作るだけで十分です。精度を上げるのは後からで構いません。大切なのは、不足がいつ来るかを、事前に自分の目で見ておくことです。3か月前に分かっていれば選択肢は複数ありますが、当月に分かった時点で選択肢はほとんど残っていません。資金繰りにおいて、時間そのものが最大の資源です。
4番目の組み替えについては、誤解のないよう補足します。これは返済が滞ったときの条件変更(リスケジュール)とは別のものです。正常に返済できているうちに、借入の形をより無理のないものに整えておく、という話です。順序が逆になると、選べる手段が大きく減ります。
03
資金繰りが厳しくなると、目の前の月末を越えることが最優先になります。その気持ちは痛いほど分かるのですが、いま楽になる代わりに、来年の選択肢を失う手段がいくつかあります。次の4つは、特にご注意ください。
共通しているのは、どれも「打ち明けずに、自力で凌ごうとする」形になっていることです。資金繰りの問題がこじれるときは、金額そのものより、相談が遅れたことが致命傷になっています。
04
「厳しいと知られたら、貸してもらえなくなるのではないか」。よく伺うご不安です。しかし、実際に評価が下がるのは厳しいと伝えたときではなく、把握していなかった事実が、あとから出てきたときです。
相談のタイミングは、資金が不足する3か月前が目安です。これには理由があります。融資の実行までには、申し込みから資料の準備、審査、決裁と、順調に進んでも数週間から1か月以上かかります。加えて、条件を整えるための時間も必要です。残高が尽きる直前では、間に合わないのです。
持参する資料は、次の4点をそろえておくと話が早く進みます。
4番目は特に重要です。同じ「資金が足りない」でも、売上が伸びたことによる不足は、前向きな資金需要として扱われます。「受注が1.5倍になり、仕入と外注の支払いが先行するため、〇月に約〇〇万円不足します。入金は〇月ですので、そこから返済します」——このように説明できれば、それは業績悪化の報告ではなく、成長のための資金調達の話になります。
なお、決算書のどこを見られているのかについては、「銀行は融資審査で何を見ているのか?決算書の5つのポイントと通らない理由」で詳しく整理しています。あわせてご覧いただくと、準備すべきものがより具体的に見えてくるはずです。
融資を実行する側にいた頃、残念に思ったのは、もう少し早く来ていただければ手があったのに、という場面が少なくなかったことです。決算は黒字、事業にも問題がない。それでも、支払期日の数日前に相談に来られると、こちらにできることはほとんど残っていませんでした。逆に、余裕のある時期に資金繰り表を持って来られる方には、複数の選択肢をご提案できました。
支援する立場になったいま、最初にお願いしているのも同じことです。資金繰り表を1枚作っていただく。それだけで、漠然とした不安が具体的な数字に変わり、多くの場合、思っていたより打つ手が残っていることが分かります。怖いのは資金が足りないことではなく、いつ足りなくなるかが分からないことです。
05
ここまでは、目の前の不足をどう乗り切るかという話でした。最後に、そもそも資金繰りに追われない状態をどう作るかについて触れておきます。中期的には、こちらのほうがはるかに効いてきます。
最後の項目については、当事務所が最も力を入れている領域です。考え方の全体像は「ストックビジネスとは」のページに、立ち上げの具体的な手順は「ストックビジネスとは?種類・メリット・始め方まで徹底解説」にまとめています。
また、資産活用によって収益の柱を増やす方法をご検討の場合は、本業の融資枠への影響を先に確認しておく必要があります。この点は「経営者の不動産投資は個人と何が違う?始める前に確認したい5つのこと」で整理しました。
また、設備投資に補助金を使う予定がある場合は、採択されたあとにかえって資金繰りが苦しくなることがあります。補助金は原則として後払いで、対象となる費用をいったん全額立て替える必要があるためです。この点は「補助金は後払い。採択されても資金繰りが苦しくなる理由と5つの備え」で整理しています。
なお、当事務所は認定経営革新等支援機関です。資金繰り表の作成、金融機関に提出する事業計画の作成、資金調達の場面での同席・説明まで、一連の支援を行っています。詳しくは「伴走支援」のページをご覧ください。
FAQ
おかしくはありません。利益と現金は、そもそも動くタイミングが違うためです。売上を計上しても入金は数か月先、仕入や外注費の支払いはその前に来ます。この時間差を埋めるために寝かせておくお金が運転資金です。加えて、借入の元金返済は費用ではないため損益計算書に表れません。利益が出ていても、その利益を上回る元金返済があれば現金は減ります。黒字倒産と呼ばれる状態は、この二つが重なったときに起こります。
一度きりの橋渡しとして使うのであれば選択肢になり得ますが、継続的に使うと資金繰りは確実に悪化します。手数料は数パーセントに見えても、入金までの期間が短いため年率に直すと非常に高い負担になることが多く、使うたびに将来入るはずだった現金が目減りするためです。また、ファクタリングの利用が続いている状態は、銀行から見ると資金繰りが逼迫しているサインとして受け取られます。契約前に、手数料を年率に換算するとどれくらいになるかを必ず確認してください。
早い段階で相談するのであれば、不利にはなりません。不利になるのは、資金が尽きる直前まで黙っていて、突然駆け込む場合です。銀行が最も警戒するのは業績の悪化そのものではなく、把握していない事実が後から出てくることです。資金繰り表を持参して「3か月後にこれだけ不足する見込みです」と自分から説明できる経営者は、むしろ管理ができていると評価されます。相談は、資金が足りなくなってからではなく、足りなくなる3か月前が目安です。
初回相談は無料です。決算書と資金の動きを拝見し、どの経路で資金が減っているのか、いつ何をすべきかを一緒に整理いたします。無理な勧誘は一切いたしません。
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